矯正歯科治療が終わった後に行う、後戻りを防ぐ「保定装置・リテーナ」とは?
2021年10月6日
長い年月をかけて矯正治療を受けて、歯並びをきれいにできたとしても、そのままの状態でいると後戻りを起こして、再び歯並びが乱れてしまいます。
これは、当院で行っているインビザラインのようなマウスピース矯正でも同じです。
そこで、後戻りを防ぎ、いつまでも歯並びをきれいな状態に保つために行われるのが、保定(ほてい)です。
今回は、矯正治療が終わった後の保定という治療についてお話ししますね。
■保定ってなに?
○保定ってなに?
先ほど、保定とは、矯正治療後の後戻りを防ぐことといいましたが、正しくいうと、歯や顎を適切な位置に移動した状態を保持することとなります。
そして、さらには、矯正治療を終えた後の歯や顎、顔の形態や機能を安定させて、噛み合わせという歯の本来の機能を、将来にわたって保つようにしようというところまで含まれています。
保定とは、顎の骨をも含んだ治療、そして将来のお口の機能を保つための治療ということがわかります。
○どうして後戻りが起こるの?
では、どうして一度きれいに整えた歯並びが後戻りを起こすのでしょうか。
それは、歯並びや顎は、矯正治療に取りかかる前の乱れた状態で、それなりに均衡が保たれていたからです。
矯正治療で、歯並びや顎を理想的な位置に移動させるということは、治療前の落ち着いた状態を崩すことに他らないからです。
人の体は、落ち着いた状態が崩れると、元の落ち着いた状態に戻ろうとします。
歯並びや顎も同じです。
矯正治療を終えた後、元の落ち着いた状態に戻ろうとするわけです。
そこで、新しい歯並びや顎の状態に体が慣れるまでの一定期間、保定をすることで後戻りを防ぎ、新しい歯並びや顎の状態で落ち着くようにするわけです。
保定している間だけでなく、保定が終わったあとに歯並びが再び悪化してしまっては、矯正治療そのものが無意味になってしまいますから、保定は矯正治療の最終段階としてとても重要ですし、治療の成否にも関わる処置なのです。
■保定の種類はふたつ
ひとことで保定と言っても、実は自然的保定と器械的保定の2種類に分けられます。
自然的保定とは、矯正治療を終えて、理想的な歯並びや顎の状態になったのち、その状態を何らかの矯正装置を用いることなく、ご自身の体の力で保とうとすることです。
器械的保定とは、矯正装置によって矯正治療後の歯並びや顎の状態を保つ保定です。
保定は、自然的保定が理想ですが、矯正治療後すぐに自然的保定を得ることはできません。
自然的保定を得るまでの間の保定が器械的保定の役割です。
言い換えると、器械的保定とは矯正治療と自然的保定の架け橋といった感じですね。

保定には自然的保定と器械的保定の2種類がある
■自然的保定
理想的な保定状態である自然的保定にもいくつかの種類があります。
○筋肉の働きによる保定
実は、歯の位置や向き、並び方などは、お口の周囲のいろいろな筋肉のバランスの上に保たれています。
矯正治療を終えたのち、後戻りが生じるのはお口の周囲の筋肉のバランスが崩れてしまった結果という見方もできます。
例えば、上顎前突症では一般的に唇の筋肉の力が弱い傾向があります。
上顎の前に出っ張った前歯を後ろに下げても、唇の筋力が弱いままですと、唇が歯を後ろに押さえ続けることができないので、再び前歯が前に出てしまいます。
このようなときには、唇やお口の周囲の筋肉を鍛えることが必要です。
下顎前突症では舌を前に出す癖が多く、同じように舌の筋肉のトレーニングが欠かせません。
お口の周囲の筋肉をトレーニングすることで治療後の歯並びを保つというわけですね。
○噛み合わせによる保定
歯が理想的に並んでいないとき、もしくは上顎と下顎の歯が適切に噛み合っていないとき、噛み合わせたときに生じる力は、歯の位置や向きを悪くする方向に働いてしまいます。
言い方を変えると、噛み合わせが安定しているようなら、歯並びも安定することになります。
そこで、歯の形や大きさに異常がある場合には、歯の位置を整えるだけでなく、噛み合わせの調整も行って、正しい噛み合わせが得られるようにし、噛み合わせの安定を図ります。
○それぞれの歯に応じた向きを得ることによる保定
歯は、ひとつとして同じ形はなく、それぞれの歯に応じた適切な歯の向きや傾き、噛み合わせがあります。
仮に、下顎の前歯の根が平行でなかったり、内側に傾いていたりすると、歯並びの安定性が悪くなります。
歯の向きや傾きだけでなく、隣の歯との並びも平行になるようにすることが、歯並びの安定につながります。
○前歯の重なり合いによる保定
上顎と下顎の前歯の重なり合いを縦方向はオーバーバイト、水平方向はオーバージェットと言います。
もし、オーバーバイトが大きすぎると、下顎の前歯が後ろに、上顎の前歯が前に傾く原因となります。
重なり合いも正しくすることも保定のひとつです。
○歯周組織による保定
歯周組織とは、歯を支える組織のことで、歯の周囲の歯槽骨という骨や、歯肉、骨と歯根を繋いでいる歯根膜という靭帯状の組織、歯根の周囲を覆うセメント質などがあります。
矯正治療で歯が移動するのは、歯の周囲の歯槽骨が吸収されて、あるいは新しく作り出されるからです。
しかし、歯の移動が終わったとしても、歯槽骨以外の歯周組織が新しい状態にすぐに馴染むわけではありません。
特に馴染みにくいのが、捻転というねじれた状態にあった歯並びを治した場合です。
捻転していた歯の歯周組織の安定は、非常に長期に及ぶことがわかっています。
歯周組織が安定すると歯並びも自然と安定するため、安定した歯周組織を得ることも重要です。
■器械的保定
矯正治療後の後戻りを防ぐ保定は、自然的保定が最もいいということは言うまでもありません。
何しろ、なにもしないでも整えられた歯並びを維持できるわけですからね。
しかし、残念ながら歯並びを整えた直後から、自然的保定ができることなんてほとんどありません。
自然的保定が得られるまでの間は、矯正装置によって矯正治療を終えた後の状態を保つ器械的保定が必要とされる場合が大半です。
この器械的保定に用いられる矯正装置を保定装置といいます。
○保定装置の条件
保定装置に求められる条件は、矯正装置のそれとは違ったものになります。
- それぞれの歯をきっちりとめない
意外に思われるかもしれませんが、保定装置では歯1本1本をかっちりと留めることはありません。
ある程度、自由に動けるだけの遊びがあります。 - 顎の成長発育を邪魔しない
成長期の子供さんに使う保定装置の場合は、顎の成長発育に伴う歯の移動を妨げないようにします。 - 調整が簡単
保定期間は長期にわたるため、保定装置を修理したり調整したりすることもあります。
そのようなときに簡単に修理したり調整したりできる形が望ましいです。
壊れにくいことは言うまでもありません。 - 目立たない
矯正治療が終わって、せっかくきれいな歯並びになったのに、保定装置が目立ってしまうようでは困りますよね。
したがって、保定装置は外観にあまり触れず、目立たないデザインである必要があります。 - 清掃が容易
保定期間中は、矯正治療中ほど歯科医院に通わなくなります。
そのため、保定装置をつけたことによって虫歯や歯周病にならないように、歯磨きなどのお口のケアに支障が出ない形にします。 - 発音や食事に影響しない
保定装置をつけたまま会話をしたり、食事をしたりすることができるように設計します。
○保定装置の種類
保定装置は、上記のような条件を満たすため、いろいろなタイプが考案されています。
取り外しができる可撤式、接着剤でつけてしまう固定式が代表的ですが、半固定式や顎外保定装置などもあります。
◇ホーレータイプ保定装置
ホーレータイプの保定装置は、可撤式保定装置のひとつで、現在、もっとも多く用いられている保定装置のひとつです。
基本的には上顎に用いられるため、上顎の歯並びの内側を覆う口蓋床とよばれる薄いプラスチックの部分と歯並びの表側を通っている唇側線と言う細いワイヤー、そして外れないように奥歯に引っ掛けているクラスプという金具からできています。
ホーレータイプの保定装置は、24時間ずっとつけ続けます。
使用期間は、症状によって変わりますが、おおむね2年くらいですね。
◇アクチバトールタイプ保定装置
アクチバトールタイプ保定装置も可撤式保定装置のひとつです。
アクチバトールタイプ保定装置も上顎に装着する保定装置なのですが、ホーレータイプよりも一回り大きく、装着すると下顎の歯にも作用します。
上顎前突症や噛み合わせが深い過蓋咬合の治療後の保定装置として使われるほか、舌を前に出す癖や指を吸う癖など、歯並びを悪くさせかねない癖を持っている人の癖を治す目的にも使われます。
◇トゥースポジショナー
トゥースポジショナーも可撤式保定装置のひとつですが、先にお話しした2種類の保定装置と異なり、マウスピースのような形をしています。
トゥースポジショナーはやわらかく弾力性があります。
この弾力性を利用して、矯正治療を行なったのちに少し残った歯並びの隙間を閉じるなど、単に後戻りを防ぐだけでなく、保定治療中に歯を少し移動させたりするようなことにも使えるのが利点です。
◇犬歯間保定装置
犬歯間保定装置は、接着剤で歯にくっつける固定式保定装置です。
名前にある通り前から3番目にあたる犬歯から犬歯の間に使います。
以前は、犬歯に金属製のバンドをつけてその間にワイヤーを通していましたが、現在では接着剤の性能が高まってきたこともあり、バンドをつけず歯に直接ワイヤーを接着するタイプが主流です。
固定式保定装置といえば犬歯間保定装置と言ってもあながち間違いはないほど、固定式保定装置の中でもっともよく使われています。
上顎でも下顎でも使うことができますが、特に下顎の前歯の歯並びを整えた後に使われます。
■保定期間
保定装置を装着する期間は、年齢や元の歯並びの状態、矯正治療の経過などによって異なり、一律に決めることはできません。
一般的には、矯正治療に要した期間がひとつの目安とされ、それと同じだけの期間保定装置を装着します。
もちろん、それより長くなることもあれば、反対に短くなることもあります。